※ ページ7
『すごーい…』
さすが都内の水族館と言ったところか。
入ってすぐの大きい水槽では
沢山の魚たちが優雅に泳いでいる。
その姿を見つめる家族連れや恋人同士は
みんな幸せそうな顔をして笑っている。
そんな「当たり前」の幸せを、私は知らない。
あまりに眩しすぎるその空間に耐えきれず
目的の深海フロアに繋がる階段を降りた。
━━━━━━━
『わ、怖い顔』
光の届かない水中で暮らす為眼球は大きく、真っ黒だ。
その筋肉や身体は脆いが、鋭い牙が何ともおぞましい。
時間を忘れ、一つ一つの水槽を覗き込む。光る鱗は美しい。
暗く寂しい深海の中で
その光を見つけてくれるものはいないのに。
そんな中クリオネの水槽に辿り着いた。
さっきまでとは違う、可愛らしい生物だ。
『ハダカカメガイ？』
説明文に書かれた正式名称は
その姿に似合わなくて少し笑える。
翼足を動かして遊泳する姿はまさに天使だ。
そんな姿に、見惚れていた時。
「＿＿＿＿桜木、Aさん」
背後から聞こえた、暗く沈むような声。
低い訳では無い、まだどこか青年帯びている。
驚きながらも振り返ると
揺れる銀髪から覗く虚ろな目と視線があった。
その雰囲気とは対照的に、ピンク色のジャケットが爽やかだ。
『…えっと』
「''トム''…永山吐夢です」
『あなたが、トム、さん？』
名前を呼ぶと、ぺったりと貼り付けた様な笑顔。
私は彼にフルネームを教えた覚えは無いが
彼は確かに先程、一言一句間違えずに私の名前を呼んだ。
背筋がピン、と伸びるのがわかった。
彼の存在が違和感そのもの、そんな感覚。
「お伝えしましたが、僕とあなたは運命で繋がっています」
『…あの、仰っている意味がわからないんですが』
「僕は恐ろしく不運な星の下に産まれているんです」
＿＿＿でもそれは、あなたも同じですよね？
水槽から聞こえる水の音と、彼が零したその言葉。
…この人は何かが壊れている。逃げなければ。
そう思って彼の横を通り過ぎようとした時、
待ってください、と掴まれた右手。
その手は酷く冷たく氷のようで
生きた人間の体温とは思えなかった。
『離して、』
「クリオネの捕食を、見た事はありますか？」
掴んだ手を離す気はないらしい。空いている彼の白い手は、
先程まで見つめていた水槽を指さした。
「その隠された本当の姿は、例えるなら悪魔だ」
『…っ』
「まるで僕達の様です」
あなたもそう思うでしょう？
そう問いかけながらペタリと笑う彼に
深海魚の姿を重ねた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 678人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
蒼(プロフ) - のんさん» 初めまして！よかったです…！😭吐夢くんの重さならきっとヒロインちゃんを1人逝かせることは無いよな…と思いニヤニヤしながら書いてました☺️笑とても素敵なコメントありがとうございます😭 (3月24日 11時) (
レス) id: 17192916b3 (このIDを非表示/違反報告)
のん(プロフ) - 更新ありがとうございます！元々の終わり方も好きでしたが、Another endの方も好きでした...！吐夢くんとなら地獄でもどこへでも行きたいですね← 最高でした...(語彙力なくてうまく伝えられずすみません😂) (3月24日 7時) (レス) @page37 id: 54603a8b2a (このIDを非表示/違反報告)
蒼(プロフ) - 零さん» ありがとうございます🍀✨好きなエンドが別れるかなと当方も書きながら思っていたので、Anotherの方で楽しんでいただけて良かったです…！素敵なお言葉ありがとうございました☺️🌷 (3月23日 16時) (レス) id: 17192916b3 (このIDを非表示/違反報告)
零(プロフ) - こんにちは。作品を一気に見て感想の方をコメントさせて頂きました。私、個人的にはAnother endが好きな終わり方だったな、と勝手ながら思いました。勿論、本編の方もドキドキしながら読ませて頂きました。素敵な作品を有難うございます。長文失礼しました。 (3月23日 16時) (レス) id: 46e0494878 (このIDを非表示/違反報告)
ニー(プロフ) - 蒼さん» あ、そうなんですね！分かりました！また機会があるときにお願いします！ (3月20日 11時) (レス) id: e747ca13ec (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：蒼 | 作成日時：2024年3月4日 13時
